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思考法

「ひらめく」とは何が起きているのか――ドミノ問題で見る発想の正体

解けなかった問題が突然解ける「ひらめき」。チェス盤とドミノの有名な問題を使って、問いの形が切り替わる瞬間に何が起きているのかを探ります。

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解けなかった問題が、ふとした瞬間に「あっ、そうか」と解ける。この体験は、多くの人が一度は味わったことがあるはずです。けれども、あの瞬間に頭の中で何が起きているのかを説明するのは、意外と難しいものです。この記事では、一つの有名な問題を実際に考えながら、「ひらめき」の正体に少しだけ近づいてみます。

まず、この問題を考えてみてください

8×8のチェス盤(全部で64マス)があります。左上の角と右下の角、つまり対角線の両端にある2マスを取り除きます。残った62マスを、隣り合う2マスを覆う「ドミノ」(1×2の長方形)31枚で、重ならず隙間もなく敷き詰めることはできるでしょうか。

最初に思いつくのは、実際に並べてみることでしょう。左上から順に置いていき、行き詰まったらやり直す。ごく自然な方法です。ところが、この問題ではどれだけ並べても、最後に2マスだけが余ってしまいます。ちなみに、角を取り除かない完全な8×8の盤なら、ドミノの敷き詰め方は12,988,816通りあることが知られています。取り除いた盤でも「どこかにきっとあるはず」と思えてしまうのが、この問題のいやらしいところです。

ここで一度、手を止めて考えてみてください。「できる」なら並べ方を一つ見つければ終わりです。では「できない」としたら、膨大な並べ方を一つ残らず試さずに、どうやってそれを示せるでしょうか。

見る対象を変える:盤を色で塗ってみる

ここで、盤を市松模様(白と黒)に塗ってみます。すると、見る対象が「ドミノの並べ方」から「ドミノが覆うマスの色」に変わります。

ドミノは必ず隣り合う2マスを覆いますから、市松模様の上では、白1マスと黒1マスをちょうど1つずつ覆います。つまり、31枚のドミノで敷き詰められるなら、覆われるマスは白が31、黒が31でなければなりません。

では、取り除いた2マスは何色でしょうか。対角線の両端の角は、どちらも同じ色です(行番号と列番号の和が、左上は 1+1=21+1=2、右下は 8+8=168+8=16 で、どちらも偶数だからです)。白32・黒32の盤から同じ色を2マス取り除くので、残りのマスは次のようになります。

白 32−2=30,黒 32\text{白}\ 32 - 2 = 30,\qquad \text{黒}\ 32

この式は、残ったマスが白30個、黒32個で、数が揃わないことを表しています。ドミノは白と黒を同数ずつ覆うので、どんな並べ方を試しても、この盤は敷き詰められません。並べ方を一つも試さずに、「できない」と断言できたわけです。

ひらめきの中で起きていること

この解法には、場合を一つも調べずに結論が出るという驚きがあります。何が起きたのでしょうか。

一つの見方は、「問いの形が変わった」というものです。最初の問いは「どう並べるか」でした。色を塗ったあとの問いは「ドミノが覆う白と黒の数はどうなるか」です。後者は、並べ方の細部に左右されません。どの並べ方でも変わらない量、つまり「不変量」に注目したことで、膨大な場合の調査が一瞬で終わりました。

ひらめきは天から降ってくるものだと思われがちですが、この例を見ると、行き詰まりの「中身」がヒントになっていることが分かります。何度並べても最後の2マスが余る。その失敗の繰り返しがなければ、「そもそも並べられないのでは?」という疑いは生まれません。試行錯誤は、問いの形を変えるための材料集めでもあるのです。

行き詰まったときに投げかけたい3つの問い

ひらめきを意図的に起こすことはできません。けれども、起こりやすい状況を作ることはできます。次の3つの問いは、ドミノの問題以外でも使えます。

  1. 何をしても変わらないものは何か?(不変量を探す)
  2. 数えられるもの、塗り分けられるものはないか?(見る対象を変える)
  3. 「できる」ではなく「できない」としたら、どう示せるか?(目標を反転させる)

どれも、手を動かす前に「問いの立て方」を見直す習慣です。力を入れて同じ方向に押し続けるのではなく、押す方向そのものを疑ってみる、という態度だと言えます。

まとめ

ドミノの問題は、「並べる」から「色の数を数える」へ視点を切り替えることで、一瞬で決着がつきました。ひらめきの正体の一つは、問題の見方が切り替わることだと言えそうです。そしてその切り替えは、何も考えずに待っていて起こるものではなく、試行錯誤の中で「何が変わらないのか」に気づくところから生まれます。次に行き詰まったときは、さらに力を込める前に、「今、自分は何を見ているのだろう」と問い直してみてください。

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